輝く女性たち

川口幹子さん / 一般社団法人MIT

“生態学研究から農村での実践へ”
 大学の研究職を辞し、対馬へ飛び込んだのが3年前。メーリングリストで見つけた「対馬市島おこし協働隊生物多様性保全担当」への転職がきっかけでした。
 それまで私は進化生態学を専門とする研究者でした。生態学とは、生態系を構成するあらゆる要素の関係性を学ぶ学問です(と私は思っています)。自然界では「ゴミ」が出ません。生物の生命活動からでた「排出物」は、「資源」として次なる生物の命を支えているからです。そうして全体として資源が循環しています。なぜ人間社会だけ、こんなにも「ゴミ」が出るのだろう。人間社会も、もっとその土地にある自然環境を活かして、生態系の循環の中に位置づけていくべきなのではないか。そんなことを考えているとき、私の頭に浮かぶのは農村の風景でした。
 循環の仕組みが活かせそうなのが、といいますか、循環の仕組みを活かす知恵を継承してきたのが、農業だと思ったのです。私はやっぱり農村に住みたくなりました。 
図3 
図2  “農村への憧れと尊敬”
 思い起こせば、農村へのあこがれは子供の頃からありました。何故なのか、何がきっかけなのかは、未だによくわかりません。最初の小学校は周りが田んぼとリンゴ畑に囲まれていました。少し年上の近所のお姉さんは、田んぼの生きものを捕まえるプロフェッショナルで、ドジョウは首を捕まえるとキュッと鳴くことを教えてくれました。
 転校した先の学校で仲良くなった子は農家の娘でした。遊びがすごく豊かでした。何でも知っているし何でも出来る。私はそんな彼女に憧れていました。私の父は百貨店に勤めていて、とにかく転勤が多い家でした。幼馴染という関係を、うらやましく思いました。漠然と、土地に根差した仕事や、自然と対峙する仕事への憧れと尊敬があったのかもしれません。

“志多留の豊かさを証明して、この地に仕事をつくりたい”
 今私が住んでいる対馬市上県町志多留地区は、人口67名、高齢化率は6割を超える限界集落です。担い手がいなくなった農地は放棄され、空き家も随所にみられます。私は3年前、この集落に一目惚れして移り住みました。弥生時代から稲作がおこなわれていたという歴史ある水田。今はほとんどが放棄地ですが、ここが水田になったら、どんなに奇麗だろうと思いました。田んぼだけではなく、山、川、畑、浜、海…里山を構成するすべての要素が、志多留地区内に揃っていました。
 私には、これらが宝の山であり、真っ白なキャンパスに見えました。その土地にある資源を活用し、物質循環を可能にする地域づくりを行う上で、必要な要素が全て揃っているように思えました。 

 最初はそんな、自分の夢を実現するフィールドとして、志多留に住みたいと思いました。しかし住んでみると、人々の暮らしそのものが、とても味があるのです。みんなとても親切で、わが子わが孫のように接してくれます。この方たちの故郷を、消滅させたくない。この地区の豊かさを証明して、この地区で仕事を作りたい。いつしかそんな風に、思うようになっていました。

図4 

 “地方でも魅力ある仕事をつくり、暮らすことができる”
 島おこし協働隊の任期は3年間でしたが、任期終了後も対馬での地域づくりを続けたいと思い、平成25年に一般社団MITを立ち上げました。
 現在は、大学生をインターンとして受け入れて地域づくりを協働して行うプロジェクトや、グリーンツーリズムの推進体制を作り対馬の「暮らし」の魅力を観光という手段で伝えていこうという取り組みをしています。まだまだ面積は小さいですが、志多留の放棄水田を借りて、稲作にも挑戦中です。
 今、自分らしい生き方を求めて、地方を目指す人が増えています。地方でも魅力ある仕事を作り出すことができる。ちゃんとここで暮らして子供を育てられる。自分自身がそれを実践して、後に続く人に勇気を与えられるようになれたらな、と思っています。

(更新 平成28年3月)

 

ライフ年表

 31歳 対馬に移住。島おこし協働隊生物多様性保全担当に就任
 33歳 一般社団法人MITを設立
 34歳 島おこし協働隊生物多様性保全担当 任期終了。独立。
 35歳 結婚
 36歳 出産

  • 現在の仕事(活動)を始めるきっかけ又はやりがい
  • きっかけは、メーリングリストで「島おこし協働隊生物多様性保全担当」を募集していると知ったことです。以前より、人と自然が融合している里山の自然に興味があり、農業振興と生物多様性保全とを結び付けられるような仕事がしたいと思っていました。島おこし協働隊の任期は3年でしたが、その間に、人脈づくりや地域ニーズの把握をさせていただけたので、独立して仕事を続けることができています。

  • 仕事(活動)と家庭の両立で工夫していること
  • うまく両立できていない気がしますが、職場がとても近い(歩いて5分もかからない)ので、家事をしに帰って、また事務所に戻るということも柔軟にできる環境です。夫婦間ではほとんど仕事の話をしませんが、切り替えという意味では良いのかもしれません。出張や遅い時間の会議など、どうしても家事との両立が難しい場面もありますが、ありがたいことに主人の実家がこれまた近くなので、そういう時は甘えさせてもらっています。

  • これからしたいこと(今後の目標)
  • 今までは、求められている仕事にがむしゃらに応えてきた、という感じで、しっかりと自分が本来やりたかったこと、やるべきことに向き合う時間も心のゆとりもありませんでした。出産を機に、しっかりとライフスタイルを見直し、本来やりたかった「自然と共生した農業」を、じっくり時間をかけて実践していきたいと思っています。